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第一夜

小学生の頃、都営団地の抽選に当たり、引っ越すことになりました。
いよいよ引っ越す前日のこと、ごくたまに遊ぶことはあるけれど、とりたてて仲の良いというわけではないH君が遊びに来ました。
聞けば、H君も明日引っ越しをするとのこと。二人で互いに偶然を驚きあった後、思い出の場所などを巡って一日を過ごしました。
別れるとき、自分達はもう一生会うこともないだろうと互いに別れを惜しみました。

翌日、引っ越し先に到着。作業の間、子供はかえって邪魔だということで妹と私は側の公園で遊んでいました。
っと、別な引っ越しトラックがやってくるのを見つけました。どうやら私の引っ越した団地の同じ号棟へ、やってきたようです。興味持った私が、トラックへかけよってみると・・・
H君がいました
驚きました。昨日別れたはずのH君が、まさか同じ団地の同じ棟へ引っ越してくるとは!
しかし、もっと驚いたのは、階まで同じだったことです。同じ団地の同じ棟の同じ階。歩いて5秒のところに、生涯の別れをしたはずの二人が住むことになったのです。
そうなって改めて不思議に思ったのは、なぜ普段それほど遊ばないH君が、
昨日になって私の家に遊びに行こうと思ったのか・・・。



○仮説
ま、早い話が偶然なんですが。それでも絶対にありえない偶然とは言えないと思います。
まず、H君の家も私の家も同じ都営住宅の公募に当選したのですから、引っ越す日が同じだったのは不思議でもありません。同じ号棟の同じ階にというのは、私達には関係なく一つの団地内の一つの号の一つの階に2つの空き部屋がある確率に還元されます。それだけを取り出してみると、よくある光景のようにも思えます。もしかしたらそれも、私の知らない事情では必然的にそうなる仕組みになっていたのかもしれませし。
そう考えると、同じ日に同じ場所に引っ越してきたこと自体の確率はびっくりするほどのこともなかったのかもしれません。

では、前日にH君が私の元に遊びに来たのはなぜ?
まず、H君にしてみれば、引っ越す前に最後に誰か土地の友達と遊んでおきたかったのでしょう。私は当時、野球等に興味が無く、もっぱら昆虫採りで地元を隅々まで歩きまわる日々でしたから、H君が共に別れる土地を散策する相手としては好都合だったとも言えます。

っというわけで、この話は最初に思ったほどの不思議さはないということです。当時の私達はこの偶然に大いに興奮したものでしたが・・・。


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