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第四夜

これは私にとって非常に悲しい思い出です。
小学校低学年の頃、私には親友と呼べる友達のT君がいました。家が近くだったこともあって、毎日のように共に遊んだものです。
ある日、T君と私を含む数人で鬼ごっこをして遊んでいたときです。T君が捕まり、鬼の役をする番になったのですが、なぜかT君は鬼の役をやりたくないと言いだしたのです。しかし仲間がそれで納得するわけもなく、結局T君は鬼になりました。

逃げる私たち。追うT君。私たちは森を抜けて道路を渡った先にある小屋へ逃げ込みました。しかしT君もそれを見ていて、森を飛び出し、道路へ駆け出して・・・。
っと、私は”ドン”という衝撃音を背後に聞いたのです。一番後ろを走っていた友達が叫びました。「T君、轢かれた!」
子供達が道路へ飛び出すと、ちょうどトラックが走り去ろうとしているところでした。誰かが「あれ!」っと指差します。あろうことか、トラックの下側のシャーシ部分に、T君の足が見えているではありませんか!そうです。トラックはT君を轢き、彼をひっかけたまま引きずって逃げ去ろうとしていたのです。

その先は踏み切りでしたが、遮断機が降りていて近くの保育園の園長先生が信号待ちをしていたため、トラックは左折して逃走しました。その後を子供達が「轢き逃げだ!」っと叫びながら追いかけます。園長先生もそれで異変に気付き、自転車でトラックを追いはじめました。途中、私の家があったので、私達は母親を呼び出して110番をしてもらいます。トラックは一本道を爆走して逃げて行きます。その時、やっとT君の身体がトラックから外れたようでしたが、子供達は大人に止められて近づけません。

トラックの逃走は長くは続きませんでした。なぜならその道は、当時の東京でも珍しい牛舎がある農家で行き止まりだったからです。農家の庭先でトラックを乗り捨てた運転手が逃げようとしたところに、追ってきた園長先生が追いつき「轢き逃げ犯だ!」と叫びます。っと、何事かと出てきた農家の主人がそれを聞き、運転手と格闘の末、組み伏せて捕まえました。

まもなく警察と救急車が着き、農家の主人も轢かれた子供を見に行くと・・・。
T君は血まみれで顔も判別できないほどだったと聞きましたが、そのボロボロに引き裂かれた服を見た農家の主人は絶句しました。「うちの子だ・・・。」
そうです。T君はその農家の子供でした。
轢き逃げ犯はなんと、今しがた轢き逃げした子供の家の庭先までやってきて、その子供の父親の手で捕らえられたのです。
近所の大人達は、T君に導かれて犯人は捕まったのだと噂しあいました。




仮説

これは特に説明もいらないでしょう。踏み切りが開いていれば、犯人は旧道を抜けて国道へ逃れられたでしょうが、事故が起こった瞬間にはすでに踏み切りは閉じていました。つまり、事故を起こした瞬間にはすでに犯人の運命は決定していたのです。

ちなみにT君はやはり死亡していました。
私はその時のショックがトラウマとなり、未だに自分で自動車を運転する気がおきず、免許もとっていません。これからも免許を持つことはないでしょう。

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